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高さ:21.6 cm 幅:11.0 cm
本作は、丹波立杭の俊英・市野正大様が手掛けられた陶胎漆器(とうたいしっき)の花入でございます。卵形の端正なフォルムに、深淵を思わせる漆黒と赤土の素地がなだらかな境界線で交わり、静謐と躍動が一体となった独特の景観を生み出しています。陶胎の堅牢さと漆の艶やかさ――日本の二大伝統素材が織りなす〈重厚でありながら軽やか〉という二律背反の美を、見事に具現化した逸品でございます。
漆黒部:上半部を覆う漆層は、透き漆と生漆を交互に六度重ね、鏡面に近い光沢を湛えています。光源を映し込むほどの艶は、手に取ると指先に滑るように馴染み、視覚と触覚の双方で高揚感をもたらします。
朱土部:下半部は丹波特有の赤味を帯びた鉄質粘土をあえて露出させ、素地の荒々しさと呼吸を残しました。漆黒部との境界を鋭い直線ではなく、山稜の稜線のようにゆるやかに波打たせることで、静かな動勢を生み、花器全体にリズムを授けています。
成形
伝統の左回転蹴りろくろで胴を一挽きし、口縁をわずかに外反させて花留まりを良好に設計。
素焼き・本焼き
約900 ℃で素焼き後、登り窯で1,300 ℃まで昇温し還元気味に焼成。胎土を強化しつつ赤土の発色を確保。
漆下地処理
胴上部に目止めを施し、砥粉(とのこ)と生漆で数回下塗り。素地と漆の密着性を高める。
漆塗り・研磨
透き漆→中塗→上塗を重ねるごとに炭研ぎを行い、光沢を緻密にコントロール。
蒔き立て・乾燥
室(むろ)で温湿度を管理しながらゆっくり乾燥させ、最終磨きで鏡面へ。
陶芸と漆芸双方の手順を熟知し、一作家がワンストップで完結させるスタイルは希少であり、市野正大様の高い総合クラフト力を物語ります。
延年窯(えんねんがま)は、京都・青蓮院門主より頂いた「美意延年(びいえんねん)」の言葉――“美を愛しむ心は寿命を延ばす”――を礎とし、「用の美」に息づく精神性を作品へ映し出すことを旨としております。本作にも、見る者・使う者へ長く寄り添う“延年”の祈りが宿っています。
1993年 兵庫県丹波篠山市生まれ。丹波焼窯元・市野家の三代目。
2015年 大阪芸術大学工芸学科陶芸コース卒業。
2016年 延年窯を設立。陶胎漆器を中心とした革新的シリーズを発表。
2019年 兵庫県展 工芸部門入選。
2023年 個展「陶と漆の新境地」開催。国内外のキュレーターより高評価を受ける。
伝統を自らの軸としながらも、漆・金属・硝子との異素材融合を積極的に探求。丹波立杭焼に新たな地平を拓く旗手として注目されております。
花器として:口径が程良く絞られており、一輪の花、生け込みの枝物いずれも安定。朱土の素地が花材の緑を引き立て、漆黒部が陰影を抱え込むことで立体感が増します。
インテリアとして:和洋問わずモダン空間のアクセントに最適。スポットライトを当てると漆面が鏡のように光を反射し、周囲の色彩を写し込みます。
経年変化:漆は時を重ねるごとに透明度と照りを増し、赤土部も手油や環境で渋みを帯びます。育つ器として末永くお楽しみいただけます。
陶胎漆器の大型花入は制作・管理が難しく、市場流通は極めて限られます。若手期の代表作に位置付けられる本作は、将来的に作家史を辿る上でも重要な基準作となり得ます。美術館・ギャラリーのみならず、個人コレクションとしても価値の高い一点でございます。
「陶漆花入 市野正大様」は、丹波立杭の赤土と日本漆芸の深い光沢が融合した、唯一無二の芸術作品です。花を挿す瞬間、あるいはふと視線を向けたとき――漆黒に映る景色と朱土の温もりが共鳴し、日常の空間を格別の舞台へと昇華させます。どうぞお手元に迎え、歳月とともに深まる風合いと“美意延年”の精神を、ゆっくりとご堪能くださいませ。
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