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釉薬を用いず、土と炎だけで生まれた“侘び”の結晶
伊羅保茶碗は、高麗末期の素朴な井戸系茶碗を源流とし、ざらりとした肌合いと鉄斑(てつふ)を特徴とする高麗茶碗の一系統です。日本では桃山時代より茶人に愛好され、「いらいら」するほど粗い手触りに味わいを見いだしたことから「伊羅保」と呼ばれてきました。市野信水様は、その精神を丹波の土で現代に蘇らせておられます。
本作は一切の施釉を行わず、丹波の鉄分豊かな陶土と登り窯の炎が生む自然灰のみで景色を纏っています。表面には細かな石英粒が星屑のように煌めき、ところどころに現れる黒い鉄斑が渋いアクセントを添えています。触れた瞬間に伝わるざらつきは、まさに伊羅保ならではの“いらいら肌”。手のひらに土の息吹が直に伝わり、茶を点てる所作に野趣と温もりを呼び込みます。
口縁に向かってすっと開く端正なシルエットは、初代から受け継いだ卓越した轆轤(ろくろ)捌きの賜物です。高台はやや低めに切り落とし、見込みには軽く指跡を残すことで、素朴な味わいと実用性を両立。茶筅を振る際の安定感と、茶がふわりと立ち上がる広さを兼ね備えています。
市野信水様は、丹波の山より採土した荒土を数年寝かせ、石や鉄分をあえて残したまま練り上げることで、伊羅保に不可欠な粗粒感を引き出しています。登り窯で三昼夜以上焼き締めることで、灰が自然に溶けて薄いガラス質膜を形成し、釉薬を用いずとも侘び寂びの景色が自ずと器肌に定着します。
初めの表情:素朴な黄土色と石英粒の煌めきが爽やかで、荒々しさの中に清廉さを感じさせます。
数十服後:茶渋がじわりと沁み込み、色味が落ち着いたこげ茶を帯び、より野地の風貌に。
年月を経たのち:口縁や見込みに潤みが増し、ざらつきの間を柔らかな艶がつなぎ、唯一無二の“育ち景色”へと変貌します。
ご使用前に軽く水を通し、器肌を潤してからお使いください。
使用後はぬるま湯でさっと洗い、布で水気を拭き取ってよく乾燥させてください。
洗剤や長時間の浸水は、土肌本来の呼吸を損なう恐れがありますのでお控えください。
土と炎だけで紡いだ、市野信水様渾身の丹波伊羅保茶盌。ざらつく肌合いと素朴な風貌が、点てた抹茶の緑をひときわ鮮やかに引き立て、茶席に静かな野趣をもたらします。どうぞ末永くご愛用いただき、時とともに深まる侘びの景色をご堪能くださいませ。
作陶歴
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